ナイフの世界は非常に奥が深い。キャンプ用、ブッシュクラフト用、サバイバルナイフ等。一口にナイフと言っても、用途や目的が異なるものが多く、国内外、海外と種類も多いし価格もピンキリ、歴史も深くマニアな方達も多い。
キャンプを始めてナイフに興味を持った「次ナイフを買うなら本気の1本を!」と考えているキャンパーも多いかも知れない。また、そうは思っても種類が多く何を買ったらいいか決めきれていない人も多いだろう。
今回取材する越山哲老(こしやまさとし)さんは、日本人で唯一のモーラナイフジャパン公認のナイフインストラクターであり、アウトドアブランドの正規輸入代理店「UPI」のブッシュクラフトインストラクターである。
自然を愛し、自然での生活を熟知するブッシュクラフトの達人で、世界各国を飛び回り技術を磨き、一本のナイフを介して自然と対峙する面白さを伝えるため、現在は全国でアウトドア技術を手ほどきし、静岡市環境学習指導員も務める。
そんなナイフの達人・越山さんの愛用ナイフは何なのだろうか。
ご自身愛用のナイフを4点紹介してもらい、それらを元にナイフの魅力、心得を存分に語ってもらうことで、ナイフに迷っている人のナイフ選びの何かヒントになれば良いと思う。
ナイフは迷いがあると危ない。
Chapter
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01.
ナイフを愛する男、越山哲老がナイフにハマったきっかけ
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02.
キャンパー御用達。モーラナイフの最強ナイフ「ガーバーグ」
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03.
ノルウェー生まれの憧れのナイフメーカー、ヘレの新作「ノルド」
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04.
アイルランドのブッシュクラフターからもらった友人の証、Field And Steel「バンシー」
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05.
日本が世界に誇るナイフメーカー、モキナイフ「バーグ」
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06.
ようこそ、ナイフの世界へ
ナイフの世界は非常に奥が深い。キャンプ用、ブッシュクラフト用、サバイバルナイフ等。一口にナイフと言っても、用途や目的が異なるものが多く、国内外、海外と種類も多いし価格もピンキリ、歴史も深くマニアな方達も多い。
キャンプを始めてナイフに興味を持った「次ナイフを買うなら本気の1本を!」と考えているキャンパーも多いかも知れない。また、そうは思っても種類が多く何を買ったらいいか決めきれていない人も多いだろう。
今回取材する越山哲老(こしやまさとし)さんは、日本人で唯一のモーラナイフジャパン公認のナイフインストラクターであり、アウトドアブランドの正規輸入代理店「UPI」のブッシュクラフトインストラクターである。
自然を愛し、自然での生活を熟知するブッシュクラフトの達人で、世界各国を飛び回り技術を磨き、一本のナイフを介して自然と対峙する面白さを伝えるため、現在は全国でアウトドア技術を手ほどきし、静岡市環境学習指導員も務める。
そんなナイフの達人・越山さんの愛用ナイフは何なのだろうか。
ご自身愛用のナイフを4点紹介してもらい、それらを元にナイフの魅力、心得を存分に語ってもらうことで、ナイフに迷っている人のナイフ選びの何かヒントになれば良いと思う。
ナイフは迷いがあると危ない。
ナイフを愛する男、
越山哲老がナイフにハマったきっかけ
越山さんがナイフにハマったのは幼少期まで遡る。
「長野の田舎に住んでいたので、よく木を切って遊んだりしていました。当時はそれしかなかったって言うのもあるけど、自然で遊ぶことが好きで、高校生になるとアルバイトをして貯めたお金で新宿までナイフを買いに行ったことを今でも覚えています。初めて買ったナイフはバックのワンテンです。」
Buck(バック)というのはアメリカが誇る世界的にも有名なナイフメーカーで、そのバックの中でも有名なモデルが、#110フォールディングハンター、通称ワンテンだ。
無事念願のマイナイフを手にした越山青年は、それから上京して、バンドをやったり、洋服屋の店員をしたりしながらもキャンプを続けていた。越山さんが、今のように深くブッシュクラフト、ナイフの世界にハマったきっかけがある。
「洋服屋をやっていた時に、アメリカに買い付けに行った時にインディアンと出会ったことが大きいですかね。当時忙しく働いていて、好きなことをやっていたので、自分の中では充実しているつもりだったんですけど、現地民に『君にはライフ(生活)があるの?』と聞かれてハッとしました。」
自分の中では好きなことをして日々充実した生活を送っていたつもりが、インディアンには空っぽに見えたことが何よりショックだった。
その言葉から、越山さんは自分の考え方や生き方が変わり、自然の中で生活をしたいと考えるようになったそうだ。
「39歳の時に東京を離れ、今の静岡県島田市に移住してきました。島田市にしたのは、大井川から見た空が広く、都会の景色とはかけ離れていて、癒されたからです。」
越山さんというと、ずっと今のようなブッシュクラフトなスタイルでキャンプをしてきたと思う人もいるかも知れないが、成人してキャンプをするようになった当初は、大きいテントを張り、椅子とテーブルを出し、ダッチオーブンを用いて大掛かりな料理を作ったりもしていたそうだ。
「途中で思ったんですよね、俺一人だったらこんなに荷物がいるか?って(笑)。自然の豊かな地に移住してきて、アメリカの大自然で得た感動をこっちでも得たくて、『モノがないキャンプの方が感じられるものがあるんじゃないか!?』って考えるようになっていったんですよね。」
「ナイフは好きでずっと集めていました。目黒の骨董品屋さんに行って、レアなヴィンテージものを見つけては買い漁ったりしていました(笑)」
そんなナイフ好きな越山さんが「より自然環境を味方につけて生活する術」を学んでいくうちに、気付けば世の中では「ブッシュクラフト」という言葉をよく耳にするようになった。
「15年くらい前からですかね?ブッシュクラフトというものを知ったときに、これは俺のやっていることだ!と嬉しい気持ちになりました。今までも好きなことをやってきたつもりではありますが、自然を身近に感じながら生きていく決心をしてから、運が開けていった気がします。」
今でもナイフのワークショップなどの講師業を中心に週に数日は野営をしているという。
そんなナイフのプロ、越山さんが選ぶ極上のナイフ4点。
これから「本気の1本」を選ぼうとしているあなたのヒントになるかも知れない。
キャンパー御用達。モーラナイフの最強ナイフ「ガーバーグ」
「1本目はモーラナイフのガーバーグ(カーボン製)です。モーラナイフというと最近のブランドなイメージを持つ方もいるかも知れませんが、本国スウェーデンでは歴史のある老舗ナイフメーカーなんですよね。」
確かにモーラというと種類も豊富で、コンパニオンなどのエントリーモデルを持っている人も多いかも知れない。
その数あるモーラナイフの中でもガーバーグがオススメな訳を越山さんに聞いてみた。
「まずはフルタングといってタングが中に下まで入っていて丈夫なことが挙げられます。その割に軽く、意外とシンプルに見えて持ちやすかったり、トータルでバランスが非常に良いナイフだと思います。」
「他にもDLCコーティングという、ダイヤモンド・ライク・カーボンというダイヤモンドと同じ硬さの炭素の膜が張られていて、より丈夫に作られています。サイズ感も人差し指と同じくらいの長さで非常に扱いやすい。長ければ長いでそういった扱いをすれば良いだけですが、一つの目安として、刃の長さ、ブレードの長さは意識した方が良いと思います。」
越山さんに言わせると、自分に合った長さを選ぶというのは非常に重要で、それはナイフだけに限らず、斧などにも当てはまるという。
「さらにガーバーグの良さは、HRCとうハードネスロックウェルというロックウェルさんという人が考えた硬さの数値化があるのですが、60までが実用範囲と言われていて、このガーバーグは58〜60とちょうど良い硬さなんですよね。」
越山さんは実はモーラナイフのガーバーグが好きすぎてガーバーグの刺青を腕に入れている。そんな越山さんらしい最初の1本、モーラナイフのガーバーグ。
ステップアップとしても、長く使っていく相棒としても安心な、バランスの取れたモーラナイフの名品でオススメの1品だ。
ノルウェー生まれの憧れのナイフメーカー、ヘレの新作「ノルド」
次に越山さんが選んでくれたのは、もはやナイフの王道になりつつあるノルウェーのナイフメーカーHELLE(ヘレ)が2022年に発売した新作「ノルド」だ。
「私はこのノルドのことを『チョッパー』と呼んでいるのですが、チョッピングに向いているんですよね。チョッピングというのは木の枝払い的な感じ、叩き切るということです。」
HELLEというと、テマガミやヒロシ御用達のディーディーガルガルなどの人気モデルが多い。その中で越山さんは「ノルド」という新作を選んだ。
Nord(ノルド) は北を意味するが、それ以外にも、力強さや冬の暗闇、また夏の日差しという意味も持っている。季節の移ろいが見せる日々の変化や自然との繋がりは、我々に大きな影響を与え、『私たちは北国の文化の一部分である』とヘレは考えている。
「一見するとかなり大型のナイフですが、ナイフの重心がちょうどナイフ全体の中央部分、ハンドルの人差し指の方にあって、しかし、前にナイフを振ると重心が一気にポイント(先端)に掛かり重心が移動します。ずっしりとした重みと幅広い用途に対応したノルドは実用性の高いナイフだと思います。」
ノルドは北欧の大自然にも対応できるよう開発されたフルタングナイフであり、代々の知恵を現代のスタイルに進化させた新世代のアウトドアナイフだ。
アイルランドのブッシュクラフターからもらった友人の証、Field And Steel「バンシー」
「次に選んだナイフはイングランド・ヨークシャーのナイフブランド『Field and steel』のバンシーです。アイルランドのブッシュクラフター、ジョー・プライスから友情の証にもらったナイフなのですが、僕はこのナイフのハンドルをフィッシュテイルと呼んでいるのです。また、ブレードの作りが独特なんです。」
確かに言われてみると日本刀を思わせるブレードをしている。
「友人でもあり制作者のスティーブに『まるでサムライ・ブッシュクラフト・ブレードだ』と伝えたところ、彼は幼少のころ空手をやっていたことから日本刀、特に短刀と北欧のプーッコからインスパイアされ、デザインに落とし込んだと言っていました」
越山さんに言わせるとブッシュクラフトもナイフを使うことが多いこともあり、メンタリティ的には武士道や侍道におそらく近いものがあると言う。
キャンプで使うナイフと言うと悪い意味ではなくとも少しぞんざいに扱いがちではある。ただ、それを侍で言うところの刀だと思えば、見方も変わってくるし、扱い方も慎重になっていくに違いない。
「ベストな厚みというのも人それぞれ、用途によってなのですが、こちらのバンシーは刃厚が4mmあるので十分ハードにも使えますし、かと言って厚過ぎて細かいナイフワークができないわけではない。非常にバランスが良いナイフです。」
日本が世界に誇るナイフメーカー、モキナイフ「バーグ」
越山さんが最後に紹介してくれたナイフは日本のナイフメーカー「モキナイフのバーグ」だ。
「知名度こそ一般には低いかと思うのですが、ナイフ業界、ナイフ好きには知らない人はいない、有名なナイフメーカーなんですよ。海外の有名なナイフメーカーのナイフも実はOEMで、モキナイフが作っていたりするんです。日本が誇る世界的なファクトリーナイフメーカーです。」
こちらのバーグはアウトドア、キャンプ、ブッシュクラフト、BBQ、狩猟、鑑賞など、幅広い用途で楽しめるよう、モキナイフが新しい鋼材で開発したナイフだ。
「こちらのバーグはコンベックスなんですよ。コンベックスというのは『形状的に凸であること』を意味します。側面が丸いんですよね。バークリバーなんかもコンベックスです。スカンジが線で切っていくのに対し、コンベックスは面で切っていくイメージです。」
硬度はHRCで62と高硬度スペックとなっており、耐摩耗性に優れている。
「このモキナイフは重いんだけど、気持ちいい重さ。と言うことはバランスが良い重さなんですよね。モキハンドルと呼ばれるモキ伝統のこのエレガントなハンドルも魅力のひとつです。」
110年以上の歴史があるというモキナイフ。
「ブレード、ハンドル共に削りがピカイチなんですよね。徹底的にハンドメイドに拘っていて日本一綺麗なナイフを作るナイフメーカーだと私は思っています。業界ではずっと知られているのですが、世界的に認められている技術をもったナイフメーカーです。」
ようこそ、ナイフの世界へ
越山さんに最近のキャンプ事情、ナイフ事情を聞くと、最近はナイフのワークショップでも女性の参加者が増えたそうだ。
「インディアンに限らず先住民って、女性が刃物を使って食料、狩猟で得たものをバラすんですよね。そして火を司っているのも女性なんです。今、僕のワークショップなんかも女性の参加者が多いんですよね。それって思うんですけど、日本人の女性が自分たちが自由に選択して自分で活動できる時代になったのかなって印象は受けますね。」
ナイフといえば男のアイテム的なイメージが先行しがちだが、現代は男性も女性も関係なく、アウトドアをキャンプをナイフを自分なりに楽しめる時代になったのかも知れない。
「ソロキャンパーの女性も多くなってきましたよね。男の出番は終わったんじゃないかって気もします(笑)。今のアウトドアブームを牽引しているのも女性なのかなとも思います。そういった事もあって、最近では腕力を必要としないナイフワークを意識した講習を開いたりもしています。」
ナイフにおいて大事なのは、まずはどのナイフを使うかということではなく、「正しい知識をつけること、そしてスキルを上げること」だと越山さんは言う。
男性、女性関係なく、正しい知識を持って、そのナイフの特性を知ると、正しい使い方が自ずと分かるようになる。ナイフにもそれぞれキャラクターがあって、その個性を肌で感じられるようになると、自分との相性が分かる。その頃にはきっとあなたはナイフ沼から抜け出せなくなるのだろう。
「ナイフの買う時のポイントは、ナイフに必要な4大要素っていうのがあって、『耐衝撃性』衝撃にどれだけ耐えうるか、『耐摩耗性』どれだけ減りにくいか、『耐腐食性』サビにどれだけ強いか、あとは靱性(じんせい)粘りですよね。」
〜〜性なんて聞くと難しく感じる人もいるかも知れないが、例えば材質でいうと粘りと切れ味で言ったらカーボンの方が優れているが、カーボンは錆びやすい。ステンレスは錆びにくいけれど、切れ味はカーボンには劣る。
結局どっちが良いんですか!越山さん!笑
「どっちが正解というわけではないんですよね(笑)。カーボンでももちろん良いし、ステンレスでも良い。大切なことはサイズ、使用目的など、自分に合ったものを選ぶことですよね。万人に通用するこの1本いうのはなくて、10人いたら10通りのナイフがあって良いんです。」
ナイフの世界は奥が深い。それは「これが一番」といった正解がないからなのかも知れない。
今回越山さんが選んでくれた本気のナイフを参考に、あなたに合ったナイフに出会って頂きたい。
その1本で終われるかどうか、保証は出来ないが。
1966年3月長野県諏訪市生まれ。
幼少期は山を駆け回り活発に過ごした。ターザンとワニが闘う映画に衝撃を受け、ナイフに目覚め、刃物を持ち歩くようになる。青年期はバンド活動を経てストリートカルチャーショップ経営。
39歳の時に静岡に移住し、静岡で環境教育に出会い、道具をあまり持たず野営する原始キャンプという言葉に惹かれ、ブッシュクラフトを始めるようになった。モーラナイフとの出会いはそのころで、モーラナイフがあれば野外活動が容易になると確信し、代理店から大量にモーラナイフを購入した。それがきっかけでUPIのイベントの手伝いが始まる。
2017年よりモーラナイフジャパン公認、UPIナイフ&ブッシュクラフトインストラクターとして活動し、地元静岡でもワークショップやスクールを一般向けに開催している。
今後はナイフを通して活動の幅を広げる予定だ。