アウトドア好きな俳優、とは一線を画す本物度と、道具への強烈なこだわりが垣間見えた<前編>に続き、<後編>では「父としての藤岡弘、」にフォーカスしてみたい。
現在、14歳から20歳まで1男3女の父親として、独自の子育て術を持つことは各メディアで周知の通り。
では、いかにしてその豊富なサバイバルスキルを子供達に伝えてきたのか。じつは、家族でキャンプに出かけることこそが、藤岡流実践教育の場になっているのだそう。
子供への効果的な伝え方から、お出かけ時に乗る愛車、好きが高じて製品化までしてしまった珈琲の話まで、今回も興味深い話が尽きません。
Chapter
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01.
キャンプを使った藤岡流の子育て術とは
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02.
自然の中で子供自身に考えさせる
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03.
体験を通して自然と知識が身につく
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04.
キャンプは実践教育の場
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05.
初めてのナイフは「肥後守」がおすすめ
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06.
キャンピングカー所有歴は40年近い
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07.
いざとなった時に命を預けられるか
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08.
behind story
アウトドア好きな俳優、とは一線を画す本物度と、道具への強烈なこだわりが垣間見えた<前編>に続き、<後編>では「父としての藤岡弘、」にフォーカスしてみたい。
現在、14歳から20歳まで1男3女の父親として、独自の子育て術を持つことは各メディアで周知の通り。
では、いかにしてその豊富なサバイバルスキルを子供達に伝えてきたのか。じつは、家族でキャンプに出かけることこそが、藤岡流実践教育の場になっているのだそう。
子供への効果的な伝え方から、お出かけ時に乗る愛車、好きが高じて製品化までしてしまった珈琲の話まで、今回も興味深い話が尽きません。
キャンプを使った藤岡流の子育て術とは
これまで私は俳優でありながら、人間としても絶えず全ての物事を探求しつつ、真剣に人生に向き合い続けてきました。藤岡弘探検隊の撮影も含めて世界100カ国近くの国々や紛争地域へのボランティア訪問での実体験を通じて、己を守る・家族を守る・郷土を守る・祖国を守ることの重要さを再認識しました。
私が抜刀道や柔道、空手、小刀護身道などの武道の段位や、大型自動二輪、大型自動車、大型特殊自動車、パイロット免許、二級船舶・パワーボート免許などの各種操縦免許に加え調理師免許やスキューバダイビング・無線従事者免許など多種多様な資格や免許を取得した事も現代の世の中を生き抜く為の備えであり知識・技術となっています。
さらにその知識や技術を未来ある子供達にも伝えていけたらと思っています。
私の父は世界中を旅しながら生き抜いてきた人なので、DNAの中に脈々と流れる血が、私をこのような生き方に導いたのだと思います。子供たちもどこか私に似ていて、普段は優しすぎるくらいの子たちですが、我慢強く、好奇心が旺盛で物事に動じないところがあります。
私はこれまで、キャンプを通じて子供たちにたくさんのことを教えてきました。純粋に楽しむのも1つのキャンプの目的ですが、藤岡家のキャンプは「自力で生き抜く力を養い、身につけるための場」でもあります。遊びを通して、生き抜くために必要な知恵を学ぶことは、キャンプの大事な目的の1つではないでしょうか。
現在の学校教育は、時代の流れの中でどう生きるかは教えてくれるけれど、最悪の状況の中でどう生き抜けばいいのかは教えてくれません。まあ、日常生活の中ではなかなかサバイバルな状況はないのだから仕方がないのですが、キャンプやアウトドアに出かけた時なら身をもって体験できるのです。
今、特に何が起きてもおかしくない時代。重要な備えではないでしょうか?
自然の中で子供自身に考えさせる
子供たちには、保護してくれる人がいなくても、自力で生き抜ける力を身につけてほしい。そのためにキャンプでは、その場の環境でどうやって食料を得るか、水を得るか、生き抜くのかを問答して、子供自身に考えさせます。
もちろん、初めはどうしたらいいのか子供はわかりません。ですが、まずは自然の中に身を置いたうえで、いま身に迫る危機を認識させることが大切です。寒さや空腹が身に迫るからこそ、真剣さが出てくる。そうすると、どうやって解決しようかと自分で考え始めるわけです。
例えば、あえて食べ物を持たずに出かけて、自力でいかに調達するかを考えさせることもあります。子供にはナイフや水筒、ロープなど、必要なサバイバル道具をひと通り持たせているので、身につけているものがあれば獲れるはずだと課題を与えてみるんです。
体験を通して自然と知識が身につく
まずスタートは、周りの環境をよく観察させます。目の前に川があったら、きっと魚がいるでしょう。なんだか、あそこの深場は魚にとって居心地が良さそうじゃないか。早速、ポケットのナイフを使って、森にある竹を切ってこさせます。サバイバルキットに入っている糸と針を結べば、即席の釣竿が作れます。
じゃあ、餌はどうするか。子供たちは周りを飛んでいるバッタを見つけて餌にして、魚を釣り上げました。魚をナイフで捌くのも練習です。胃袋を開けてみると、バッタの他にイワムシも出てきました。きっとイワムシも魚たちの好物なのだろうから探して餌にしよう、と子供が思いつき、その後はさらに魚がたくさん釣れて大喜びでした。
食材が確保できたら、自分で焼いて食べさせます。火を起こす時も、濡れている落ち葉より、木に引っかかって乾いている枝や葉っぱの方が燃えやすいことを、彼らは実践を通して自然と覚えていきます。
キャンプは実践教育の場
自分で魚がいそうな場所を見つけて、釣竿を作って、餌を探し、釣った魚を捌いて、焼いて。こうして食べたご飯は、そりゃあ美味しいですよね。1から10まで全てを大人が準備してしまっては、家と変わらないじゃないですか。それではつまらないし、なにをしにキャンプに出かけたのかわかりません。
とはいえ、湯煎すればすぐに食べられるご飯のように、便利なものは積極的に活用した方がいい。臨機応変な柔軟性こそが、生き抜くための大きな知恵ですよ。そのうえで、そういう便利なものがなくなった時に、自然の中でいかに獲物を得て、お腹を満たすかも同時に考えておく。私は生き抜くための便利な道具ではなく、知恵を子供たちに伝えたい。
こうして、遊びながら覚えた知識と技術はそうそう忘れません。いざとなった時に、そういった知識と技術を覚えている子が生き残る可能性はかなり高いでしょうね。
良いか悪いかは別にして、私は自分の実体験から学んだ方法でしか子供に伝えられません。いくら口で言っても、自分が実践してやって見せないと子供は納得しないでしょう。教えるためには、自分も技術を更新し続ける。逆に育ててもらっている感覚です。
実践を通して共に学ぶ「実践教育」。これが藤岡流のキャンプです。
初めてのナイフは「肥後守」がおすすめ
これは日本古来から伝わる「肥後守(ひごのかみ)」というサバイバルナイフです。子供でも使いやすいので、うちの子供たちは1人1本ずつ持っています。
私が子供の頃はみんな肥後守を持っていて、野山でいろいろな遊びに使っていました。果物の皮を剥いたり、魚を捌いたり、木の枝を切ったり。役立つシーンが多いので、ナイフの使い方を覚えさせるのにちょうどいい。刃物の扱いは、普段から使ってこそ身に付きます。
学校のキャンプに出かけた時に「先生、このキャンプ場にはコンビニがないの?」とお金を持ってきた子がいたそうですが、山で生き抜くにはお金よりもナイフが大事。これ1本あれば、アウトドアでできることが一気に増える。
子供たちには成長にあわせて、年齢にあったナイフを渡していますが、初めの刃物として持たせるなら肥後守はおすすめです。
キャンピングカー所有歴は40年近い
キャンピングカーに乗り始めたのは20代後半の頃から。かれこれ40年近くになります。現在所有している車は、フルサイズバンのフォードEシリーズをベースにアメリカのキャンピングカーメーカー「ウィネベーコ」社が製造した2007年式アスペクト。6.8LV10エンジンを搭載しています。大きなキャンピングカーとしては、これが2台目です。
私にとって家族とのプライバシーが守れることが、キャンピングカーで出かける最大の理由です。周りの目を気にせずに、いろいろな場所に自由に出かけられるのがいい。出先で美味しそうな食材を集めて、好きな料理を家族で作って(藤岡さんは調理師免許も持っている)、景色を眺めながら一緒に食べる。最高ですよ。
アメリカでは、映画の撮影現場で俳優にキャンピングカーが提供されるのですが、当時、向こうで使っていたものがすごく使い勝手が良くてね。日本でも乗れるものを探して、これに辿り着きました。
長さは8m以上もあります。私は大型自動車や大型特殊自動車の免許を持っているし、大きな車に乗り慣れていますが、こうした車に乗った経験がない人にはお勧めはできないサイズ感です。
ボタン1つでキャビンの一部が外にせり出して広がるスライドアウト機構があり、8人以上も寝られる広さが確保できます。さらに水が100ℓ以上も積めるし、さまざまなサバイバル道具が詰まっていて、単体で動くジェネレーターも備えているので、これ1台あればどこでも2、3週間は生活できる代物です。
最近は、キャンピングカーと四輪駆動の2台で出かけています。目的地に着いたら、大きなキャンピングカーをベースキャンプにして、四輪駆動に乗り換えて周辺を探索するわけです。四輪駆動の代わりに、バイクや自転車を積んでいくこともあります。とても実践的な使い方でしょう?
いざとなった時に命を預けられるか
結婚前に1人で出かけていた頃は、ランドクルーザーをキャンピングカー代わりに使っていました。荷台に寝床を作って、いろいろな道具を積みっぱなしにしておき、撮影が終わったら赤坂に飲みに繰り出す仲間たちを尻目に、私は愛車に飛び乗って海や山に遊びに出かけていました。短い時間でも、潜って魚を獲ったり、山を歩き回ったりすることが、私にとっての大切な気分転換だったのです。
今までいろいろな車に乗りましたが、ランクルが最強です。「藤岡弘、探検隊」で砂漠やジャンルや山まで世界中の僻地に行きましたが、どこに行ってもランクルが活躍していました。国によっては、家一軒分と同じくらいの価値がある高級車なんですが、それでもみんなランクルを選ぶ。「トヨタの車は壊れない」と信頼されているのが、なんだか嬉しかったですね。実際、我々撮影隊も何度も危機を助けられました。
車だけの話ではありませんが、「いざとなった時に、その道具に命を預けられるか」が、私の道具の判断基準です。人間でも同じで、ムラがある人に信頼して命を預けられますか? 「あいつなら大丈夫」とみんなに頼られるような人間になりたいと、私は常々思っています。
behind story
自然の中で飲むコーヒーは、しみじみ美味い。私は普段から1日に5、6杯は飲むくらい好きなもので、キャンプでもコーヒーを淹れる時間は欠かせない楽しみの1つになっています。好きが高じて、オリジナルの「藤岡、珈琲」を作ってしまったほどです。
海外の特殊部隊でも携帯食に必ずコーヒーが入っている。意識を常にオンにして戦うためには、コーヒーのカフェインが重要なんですね。
うちのコーヒーはアンデスの高地で有機栽培された豆を使っています。2年近く世界中を探し回ったのですが、標高が高く厳しい環境下で生き抜いた生命力に溢れるこの豆が、私の体にとても合った。収穫量が非常に少ない貴重な豆です。
キャンプでの好きな飲み方は、ローストした豆を砕いて、その山の水を沸かし、中南米の山岳民族のように直接煮出すワイルドな淹れ方。火にかけている間に、豆をナッツのように齧るのもいい。口の中に香りがフワーっと広がるんですよ。
子供たちがミルクコーヒーを飲み始めたので、最近は家族で一緒に楽しんでいます。ビールを飲んだり、インスタントで手軽に淹れてもいいけれど、豆から挽いてゆっくりとコーヒーを淹れると、あたりが珈琲のいい香りに包まれますよね。この時間そのものを楽しむのも、すごく贅沢なキャンプの過ごし方なんじゃないかな。
Text:池田圭
Photo:SPURKS編集部
松竹映画にてデビュー。 「仮面ライダー」で一躍ヒーローに。
映画「日本沈没」「野獣死すべし」「大空のサムライ」他、主演多数。
テレビ「勝海舟」「白い牙」「特捜最前線」「あすか」「藤岡弘、探検シリーズ」
他、主演多数。
アクションシーンにおいてはスタントを使わず自らこなすアクション俳優として映画界を牽引してきた。
1984年、ハリウッド映画「SFソードキル」の主役に抜擢され、日本人初でスクリーン・アクターズ・ギルド(全米映画俳優組合)のメンバーとなり、ハリウッド関係者との親交も深い。
真剣による演武を海外でも行う武道家としても知られ、柔道、空手、刀道、抜刀道、小太刀護身道他、あらゆる武道に精通。
国内はもとより世界数十ヶ国の紛争地域、難民キャンプにて救援や支援活動を展開してきた。
2016年NHK大河ドラマ「真田丸」にて本多忠勝役が話題となる。
また、同年3月全国公開の映画「仮面ライダー1号」で単独主演を務め、同作のDVD/ブルーレイは販売数“映画部門1位”を記録。
2020年、芸能生活55周年を迎え、「ソフトバンク」「タウンワーク」「ロッテ&カルビー」「日清焼そばUFO」等数々のCMに出演。
2021年、仮面ライダー放送開始から50周年を迎え、映画「スーパーヒーロー戦記」に出演。昭和・平成・令和と3つの時代で同じ役「本郷猛」として出演。
近年は、藤岡弘、ファミリーとして、天翔愛(長女20歳)・藤岡真威人(長男18歳)・天翔天音(次女17歳)・藤岡舞衣(三女14歳)と共に、家族愛の象徴として注目を集めている。