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Column

寒川一の、サボる焚き火

アウトドアライフアドバイザー

寒川 一

2022.9.20

アウトドアライフアドバイザーや焚火カフェの運営、そしてUPI OUTDOOR PRODUCTSのアドバイザーをも務める、焚き火の達人・寒川一(さんがわはじめ)さん。

そのアウトドア歴は40年以上。日本だけに留まらず、北欧やアメリカ西海岸など、海外でのキャンプ経験も豊富なアウトドアズマンだ。

東日本大震災をきっかけに、近年では「防災キャンプ」としてアウトドアを通して災害時にも役立つ生きる術を世に広めるための活動もしている。

キャンプイベントやメディアにも多く出演し、テレビ番組のコーディネートや自身の本も執筆し、「アウトドアライフアドバイザー」として、焚き火、アウトドアの魅力や作法を広く伝えている。

その寒川さんがこのキャンプブームの中で伝えたいこと、考えていることは何なのだろうか。

今回は寒川さんの鎌倉のご自宅にお邪魔させてもらい、一緒に焚き火を囲みながらお話を伺い、寒川一が考える「サボる焚き火」とは何なのかを紐解いていった。

寒川さんが作る焚き火動画も撮影したのでぜひ見ていただきたい。
珈琲でも用意して“焚き火の達人”が作り出す焚き火を眺めていたら、時間が経つのを忘れて見入ってしまうだろう。

Chapter

  • 01.

    寒川少年の焚き火との出会い

  • 02.

    夕陽が見たくて会社員をやめた、寒川一のサボりの原点

  • 03.

    海辺でただ焚き火と珈琲を楽しむ「焚火カフェ」とは

  • 04.

    北欧の「フィーカ」と寒川一の「サボり」

  • 05.

    寒川一の、サボる焚き火

  • 06.

    最後に、焚き火のしまいを大切に。

アウトドアライフアドバイザーや焚火カフェの運営、そしてUPI OUTDOOR PRODUCTSのアドバイザーをも務める、焚き火の達人・寒川一(さんがわはじめ)さん。

そのアウトドア歴は40年以上。日本だけに留まらず、北欧やアメリカ西海岸など、海外でのキャンプ経験も豊富なアウトドアズマンだ。

東日本大震災をきっかけに、近年では「防災キャンプ」としてアウトドアを通して災害時にも役立つ生きる術を世に広めるための活動もしている。

キャンプイベントやメディアにも多く出演し、テレビ番組のコーディネートや自身の本も執筆し、「アウトドアライフアドバイザー」として、焚き火、アウトドアの魅力や作法を広く伝えている。

その寒川さんがこのキャンプブームの中で伝えたいこと、考えていることは何なのだろうか。

今回は寒川さんの鎌倉のご自宅にお邪魔させてもらい、一緒に焚き火を囲みながらお話を伺い、寒川一が考える「サボる焚き火」とは何なのかを紐解いていった。

寒川さんが作る焚き火動画も撮影したのでぜひ見ていただきたい。
珈琲でも用意して“焚き火の達人”が作り出す焚き火を眺めていたら、時間が経つのを忘れて見入ってしまうだろう。

寒川少年の焚き火との出会い

私が初めてキャンプをしたのは中学生の時です。

香川県に住んでいて、夏休みに2週間かけて自転車で四国を一周しました。

もちろんその年齢だったのでキャンプ道具なんかも持っていなく、家にあるなんか使えそうなものをバッグに詰め込み、丸腰で出発しました(笑)。

当時は今とキャンプ場事情も違っていて、全国色んなところに「野営場」として無料で使えるキャンプ場が点在していたんですよね。

地図を広げて野営地を探し、自転車を走らせ、そのポイントポイントを渡り歩いて一周したって感じです。ご飯なんかはキャンプしている大学生グループに分けてもらったりして。今だと考えづらいですよね。

今でこそ、キャンプやアウトドアの経験値は40年以上ありますが、あの時の装備で同じようなことが出来るかって言われると、きっと出来ないと思います。若さもあるでしょうし、時代もあるでしょうけど。

今こうしてキャンプの仕事をしていても、時々14歳の時の自分が現れて、「ちゃんとやっているか?」って聞いてくるんです(笑)

焚き火に出会ったのもその旅で、当時は直火が可能なキャンプ場がほとんどでした。その時の感覚が忘れられず、今でも直火には惹かれます。

直火のように焚き火を楽しめる焚き火台「JIAKABI」を考えついたのも、その時の経験があったからでしょうね。

夕陽が見たくて会社員をやめた、寒川一のサボりの原点

なぜかは後で話しますが、私はキャンプをする上でも、仕事する上でも、そして人生においても「サボり」を大切にしています。

サボりの原点になったのは、30年近く前に遡ります。

当時、東京の玩具メーカーで会社員として勤務していたのですが、ある夏の日、出勤時にいつもと同じように横浜駅で乗り換えの電車を待っていたら、自分の立っているホームと反対行きのホームが浮き輪や釣り道具を持った麦わら帽子を被った人達であふれていました。

かたや自分のいるホームは下を向いた朝から疲れ切ったサラリーマンと自分。

「そっちの先には何があるんだろう」とどうしても気になってしまって。
気が付けばいつもと逆方面の電車に乗っていました。

終点の三崎口駅まで行ったのですが、その日は海を眺めたり、海辺をぶらぶらしたりしました。

一日中海辺にいると、1日の時間の流れを感じることができました。じっとしていると風を感じることができるし、地球が回っているのが分かります。太陽は角度を変えていくし、雲も流れている。

自然の中に身を置き、動かないということは、実は大きなインプットをもたらしてくれるものだと感動しました。

結局その日は無断欠勤をしたんです。当時は携帯電話もなかったので連絡のつきようがなかったのですが、肌感で会社が大騒ぎになっているんだろうなとは思っていました。

「このまま明日も会社に行かなかったら、俺は一生この会社には行けないな」と思い、次の日は普通に出社しました。

「体調が悪くて連絡できませんでした。」など、色々言い訳を考えてはいたのですが、ふと鏡に映ったこんがり日焼けした自分の顔を見て、これは言い逃れは出来ないだろうと、正直に「サボった」ことを上司に伝えました。

上司からは散々お叱りを受けましたが、あまりに堂々とサボったからか、部署内でも「たまには寒川みたいに息抜きをすることも大事だよ」という不思議な空気が流れていました(笑)。

そのサボり体験から「閉塞感から自分を開放することの大切さ」を学びました。「サボる」と言うと一般的にマイナスなイメージを持ちますが私はその後ろめたさも含め、魅力だと思っています。

日常で考えることやするべきことはたくさんあるけど、全部忘れ去って「サボる」。つまり非日常への逃避なんです。

その会社にはその後7年ほど勤めましたが、だんだん自分だけでなく、人にサボってもらえるような仕事をしたい、と思うようになりました。

海の近くに住んでいると日常的に感じるのですが、水平線に沈む夕陽が本当に綺麗なんですよね。

都会で仕事をしていると帰宅が夜になり、この綺麗な夕陽が見れない。私の場合、夕陽が見たくて会社員をやめたと言っても過言ではないかも知れません(笑)

海辺でただ焚き火と珈琲を楽しむ「焚火カフェ」とは

私が運営している焚火カフェというのは店舗を持たないカフェなんです。強いて言うなら三浦半島の海岸がお店です(笑)。

基本的には年中開催していて、1日1組限定でグループの目安は2~4人。

場所は当日に決定。その日のコンディションに応じて一番気持ちよく焚き火ができそうな海辺を選んでいます。

私も大好きな夕暮れも見どころですので開始時間も季節によって調節します。最高の夕暮れを見ながら焚き火をしてサボる。私にとってもとても有意義な時間だと思っています。

焚火カフェを始めたきっかけは、独立して始めた海辺近くの小さなアウトドアショップ。海辺で夕陽を見ながら拾った流木で焚き火をし、珈琲を飲んだりする時間が私にとって最高の時間だったんです。

その特別な時間を味わってもらいたいという思いから「焚火カフェ」を始めようと思いました。

焚火カフェの基本は「何もしない」なんです(笑)。

そこがサボりの良さなんですよね。
海岸で火を焚いて、ゆっくり流れていく時間の中にじっと身を置くだけ。

焚き火の火起こしや珈琲の焙煎などはお客様に実践していただくようにしていて、焚き火や珈琲の素晴らしさはできるだけお客様の手で体験してもらうようにしています。

みなさん、引き込まれるように焚き火に見入ってしまって、時間を忘れることもしばしば。自分の手で火起こしした焚き火を見ながらの美味しい珈琲は、本当に格別です。

焚き火が燃え尽きるころにはすっかりリラックスしていて、穏やかな表情で帰っていかれます。

北欧の「フィーカ」と寒川一の「サボり」

キャンプやアウトドアが生活に密着しているスウェーデンやフィンランドには「フィーカ」という「何もしないで、ただ珈琲を飲んで休憩する」という生活習慣の文化があります。

私が思うに「サボりタイム」ですね(笑)。

日本という国は本当に便利なもので、珈琲を飲みたければインスタントコーヒーにお湯を注ぐだけ。

インスタントコーヒーも便利なんだけど、私はせっかくなので、ゆっくり焚き火をしながら珈琲を焙煎し、「フィーカ」を楽しみます。

アウトドアと聞くと動のイメージが強いと思いますが、私が常に言っている「サボり」に結びつくのは静のアウトドアになりますね。

「サボり」というのは非日常を静で楽しむこと。日常を頑張っているからこそ成り立つものなんです。

サボり方は何でもいい。ハンモックで昼寝するのもいいし、夜の山で望遠鏡を構えて天体観測をするのもいい、じっと焚き火を見ているだけでも良いんです。

じっと過ごしていると時間がとても長く感じられ、普段の自分がどれほどせわしなく動いているかが実感できます。非日常で上手に息抜きができれば、また日常に戻って頑張るための力になる。

忙しい日常と静かな非日常を繰り返す中で、バランスをとって心身の余裕を保つことが豊かな人生を送るコツなんじゃないでしょうか。

ふと日常に余裕がなくなってきたなと思ったら、私の元を訪ねて来てください。焚き火を見つめながら時間を忘れて一緒にサボりましょう(笑)。

寒川一の、サボる焚き火

私にとっての焚き火とは、サボり時間。

そもそも「火遊び」という言葉があるように、火は扱うということは本来は危ないもの。みなさんも子供のころに火をつけたときに、背徳感を感じたことがあったでしょう。しかしそれがワクワクする効果にもなっています。

その背徳感が大人になった今でも心の奥底にあるんです。だからこそ焚き火は楽しい。

周りに誰もいないなかで焚き火をするという背徳感と、サボる焚き火を楽しむのが、寒川一流の焚き火なんです。

浜辺でひっそりやる焚き火は格別です。

火の揺らめきと波の音と背徳感が相まる中、珈琲を飲んでサボり時間を楽しむ。最高でしょう。

焚き火4K動画。ぜひフルスクリーン/4K画質で再生いただきたい。

私はアウトドアや焚き火を始めてかなり時間が経ち、アウトドアライフアドバイザーというお仕事をしていますので、次の世代の人達が焚き火を楽しんでいくために、私なりの「サボる焚き火」を、焚き火のルールやマナーを交えて伝えていく事ができたら良いなと思っています。

最後に、焚き火のしまいを大切に。

最近ではマナーの問題も多く取り上げられていますが、大切なのは「焚き火のしまい(片付け)」なんですね。

「楽しんだ分しっかりと片付けもしましょう。そしてその片付けが、次の準備につながりますよ。」という、しまいの作法が大事なんです。

燃やし切って灰にするというのが焚き火の全てですね。
焚き火をして灰にする行為が、地球の大きな循環作業に関わることになるんです。

炭は分解されないけど、灰にまですれば植物とか地球の養分になるんです。
木々を育てるエネルギーに変わる。

私たちが焚き火をやる大きな理由って、突き詰めると実はそこにあるんじゃないかって考えているんです。灰になるまで燃やすことが地球の循環作業になる。焚き火を楽しむことが、実は木々を育てることにもなっているんです。

今回、焚き火について色々語りましたが、みなさんに「焚き火とは何か」というのを考えてもらえるきっかけになってもらえれば嬉しいです。

「すでに焚き火が大好き」「焚き火をはじめたい」「やりたいけど焚き火道具を持っていない」というような人たちにも、私の考える「サボる焚き火」をぜひ経験してもらいたいです。

炎が揺らめき、温かさが伝わる。薪の燃える匂いや爆ぜる音。そして美味しい珈琲。

どうですか。ワクワクするでしょう。

8月に発売されたばかりの著書『「サボる」防災で、生きる』。
執筆時の生原稿を見せてもらった。

1963年生まれ、香川県出身。アウトドアライフアドバイザー。UPIアドバイザー。アウトドアでのガイド・指導はもちろん、メーカーのアドバイザー活動や、テレビ・ラジオ・雑誌といったメディア出演など、幅広く活躍中。とくに北欧のアウトドアカルチャーに詳しい。東日本大震災や自身の避難経験を経て、災害時に役立つキャンプ道具の使い方・スキルを教える活動を積極的に行っている。

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