南信州は、日本の真ん中に位置し、長野県の最南端、飯田市と下伊那郡(14市町村)からなる長野県南部の地域のことを言う。ほぼ中央を天竜川が北から南へ流れ、東に南アルプス、西に中央アルプスを望むことができる。
フォトグラファーの写風人さんは、「ファイヤーサイド」のほか、人気キャンプギアブランド「グリップスワニー」のオフィシャルカメラマンも務めるプロのカメラマンだ。
また、アウトドアメディアでは自身の連載を持ち、ライターとしての顔も併せ持つ。
そんな写風人さんはアルプスがふたつ映える街、長野県駒ヶ根市に魅了され2019年にこの地にやってきた移住組の一人だ。
今回はプロカメラマンの写風人さんが撮った写真を元にインタビューをし、南信州、駒ヶ根の魅力、移住生活、薪ストーブの魅力について語ってもらった。
移住先としても人気の長野県。その中でも駒ヶ根市は県内でも住み良さが人気のスポットだ。
写風人さんのファインダーを通して、南信州・駒ヶ根の人気の理由を感じて頂けたら、有り難い。
Chapter
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01.
カウボーイに憧れてはじめた野営や焚き火
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02.
南信州・駒ヶ根に暮らすのを決めたワケ
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03.
一年中薪ストーブを愉しむ暮らし
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04.
南信州・駒ヶ根の圧巻の景色
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05.
日々、薪を割り、火を灯す
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06.
南信州・駒ヶ根に家をかまえるということ
南信州は、日本の真ん中に位置し、長野県の最南端、飯田市と下伊那郡(14市町村)からなる長野県南部の地域のことを言う。ほぼ中央を天竜川が北から南へ流れ、東に南アルプス、西に中央アルプスを望むことができる。
フォトグラファーの写風人さんは、「ファイヤーサイド」のほか、人気キャンプギアブランド「グリップスワニー」のオフィシャルカメラマンも務めるプロのカメラマンだ。
また、アウトドアメディアでは自身の連載を持ち、ライターとしての顔も併せ持つ。
そんな写風人さんはアルプスがふたつ映える街、長野県駒ヶ根市に魅了され2019年にこの地にやってきた移住組の一人だ。
今回はプロカメラマンの写風人さんが撮った写真を元にインタビューをし、南信州、駒ヶ根の魅力、移住生活、薪ストーブの魅力について語ってもらった。
移住先としても人気の長野県。その中でも駒ヶ根市は県内でも住み良さが人気のスポットだ。
写風人さんのファインダーを通して、南信州・駒ヶ根の人気の理由を感じて頂けたら、有り難い。
カウボーイに憧れてはじめた野営や焚き火
写風人さんのアウトドア歴は長い。幼少期はお父さんに連れられ週末になればキャンプに行き、キャンプは身近な存在であった。そこからキャンプを続けること50年。そんな写風人さんの「駒ヶ根での焚き火と薪ストーブに囲まれた暮らし」はベテランアウトドアズマンからも一目置かれている。
「父親に連れられて、小さい頃に西部劇の映画をよく観に行っていました。マカロニ・ウエスタンなんかも今でも大好きです。映画の中でカウボーイが焚き火をしながら野営をしてるんですよ。その姿を観て、幼心にその佇まいに憧れを抱きました。私の焚き火のルーツは西部劇の中に出てくるカウボーイと言っても過言ではありません。」
カウボーイに憧れた写風人少年はスポーツ少年団などの経験を通じて、キャンプ、アウトドア、そして焚き火の楽しさを実感していく。
「そして焚き火の楽しさにハマっていくと、焚き火だけでは飽き足らず、いつしか薪ストーブにも興味を持つようになりました。薪ストーブのある暮らしに憧れ、家業である写真スタジオを継いで40歳にスタジオを新設した時に初めて、薪ストーブを社屋のロビーに導入したんです。」
今から20年以上も前。当時、写風人さんはお父さんの代から続く地元岐阜県の写真スタジオを受け継ぎ、営んでいた。七五三や成人式の前撮り、結婚式、学校の修学旅行や卒業アルバムなどの撮影をメインとする、いわば街の写真スタジオだ。
「もともとある程度の年齢になったら、もっと自然に囲まれた環境に移住したいと思っていました。」
そんな街の写真屋さんであった写風人さんが地元・岐阜県を離れ、ここ南信州・駒ヶ根へ移住することとなるきっかけは何だったのか。
南信州・駒ヶ根に暮らすのを決めたワケ
「当時、薪ストーブが好きすぎて、薪ストーブを中心としたブログを趣味で書いていたんです(笑)。たまたまそのブログが薪ストーブのブランド『ファイヤーサイド』の社長の目に止まったんですよね。そうしたら社長自ら『うちの薪ストーブのカタログ撮影をしてくれないか』とメッセージを送ってきてくれて、是非にとやらせてもらうことになりました。」
ファイヤーサイドは駒ヶ根市発のブランドだったため、それから写風人さんはカタログ撮影の度に、駒ヶ根市へ訪れるようになった。
「駒ヶ根を訪れる度に南アルプスと中央アルプスの景色に圧倒され、改めて自然の底知れぬ魅力に気付かされたんですよね。『これは駒ヶ根市に移住するしかないな』と思うようになっていきました。」
移住に際し、住まいには一切の妥協を許したくなかった写風人さんは、今の物件に出会うまでに3年の歳月を要したそうだ。
「条件は庭で焚き火ができて、家の中では薪ストーブも使える家。なかなか理想の住まいに巡り合わなかった。3年が経とうとしていたころ、元々研修センターだった今の場所をたまたまネットで見つけたんです。600坪の広さがあって、ここであれば煙を上げても誰にも迷惑をかけることなく、好きな時に好きな焚き火を楽しめる。そう思ってこの家に決めました。」
ご自宅を自らDIYで手を加えながら作り上げていく、そんな南信州での山暮らしを始めた写風人さん。当初は岐阜と駒ヶ根の2拠点生活だったという。
「まだ岐阜でバリバリ仕事をしていたので、平日は岐阜で、週末になり仕事を終えると車を走らせ駒ヶ根のセカンドハウスへと向かうという、そんな日々でした。駒ヶ根に到着する頃にはいつも夜中の0時を回っているんですよね。笑」
一年中薪ストーブを愉しむ暮らし
セカンドハウスに深夜に到着すると写風人さんはいつも、何をするよりも先にまず薪ストーブへと向かった。
「ひと気のない部屋は冷蔵庫みたいに冷えてて、吐く息は白いんですよ。アウターを着たまま、まず薪ストーブに火をつけるのが日課でした。」
薪ストーブ内に薪を組み、着火をする。大小2つのケトルに水をくみ、ストーブトップにかける。その間に車から荷物を降ろし入浴や就寝の準備をする。それが毎週金曜深夜の写風人さんのルーティンになった。
「小さいケトルはすぐに沸くので、薪ストーブ前に用意した特等席のチェアハンモックに腰を下ろして、珈琲を味わいながら炎の演出にしばし酔いしれるんです。次第に大きなケトルから湯気が立ちはじめたら、銅製の湯たんぽにお湯をそそぎ、薪ストーブには目いっぱい薪をつめて眠りにつく。些細なことですが、そんな夜が本当に心地良かったです。」
エアコンのヒーターとは違い、薪ストーブは冷え切った部屋がすぐに暖まるわけではない。
「少しずつ薪が燃え始め、輻射熱が感じられるまでは数十分かかります。そう聞くと不便に感じるかも知れませんが、一度暖まれば、温度管理は自由自在です。焚き火もそうかも知れませんが、暖房器具より自分で操っている感が楽しいですよね。笑」
冬の寒さも苦手な人なら厳しいと思うかも知れないが、写風人さんは元々冬の無機質さが好きなこともあり、そんな駒ヶ根での冬の生活を満喫していたそうだ。
「朝目覚めると、窓の外は眩しいほどの銀世界が広がっています。目を細め、パジャマのまま朝食を済ませます。朝食づくりも、寒いキッチンに向かわなくても、薪ストーブの炉には、まだ赤々と熾きが残っていて、細めの焚き付けを数本放り込めばすぐに火がつくので、全て薪ストーブがこなしてくれるんです。」
薪ストーブというと冬限定の暖房器具のイメージだが、ここ駒ヶ根だと活躍の期間が長いそうだ。
「駒ヶ根にきて本当に感じたんですけど、薪ストーブって冬だけの暖房器具ではないんですよね。この地域だと一年を通して、薪ストーブを全く焚かない時期っていうのは8月ぐらい。春先や秋口なんかは小寒いので、少し焚くだけで心地よい暖かさになります。湿気の多い梅雨時に焚けば、部屋はカラッとして過ごしやすくなります。そうしていると一年の中で全く薪ストーブを焚かない時期ってほんとわずかなんですよね。笑」
南信州・駒ヶ根の圧巻の景色
写風人さんのご自宅は1歩外へ出るとアルプスの山々に囲まれた環境だ。
「駒ヶ根は南アルプスと中央アルプスに挟まれているんですよね。その両方が見える景色はなんとも言えず、本当圧巻です。」
南アルプス側、中央アルプス側、そしてその間の中央と自分の立つ場所、見る方向によって、その表情は全く異なったものになる。
「私の自宅は中央アルプス側にあるので、森越しに南アルプス、仙丈ヶ岳が望めるんです。季節によって表情が全然違くて、本当自然の雄大さと、四季の移り変わりを身近に感じています。」
久しくやっていなかったスキーを復活したのも、駒ヶ根に移住してきて良かったと思える点だそうだ。
「父親がスキー協会の理事長をやっていたこともあって、私も小さい頃からスキーをやっていたんですよね。競技に出たりもするくらいやっていて。仕事が忙しくなって久しくやっていなかったのですが、昨年、駒ヶ根ですごい雪が降ったんですよ。自宅から車で10分の近場に小さなスキー場があって、そこに行って久々にスキーをしたら、本当気持ち良くて。徐々に若い時の感覚を取り戻しています。笑」
思い立ってすぐにウィンタースポーツを楽しめる。これも南信州の魅力の一つと言えるだろう。
「山って季節と時間帯によって本当顔が違うんですよね。」
中央アルプス穂高連峰の懐に抱かれた駒ヶ根高原は、日本一の高低差を誇る駒ヶ根ロープウェーの始発駅を中心に、さまざまなレジャー施設が集結した一大高原リゾートだ。ここにあるおもな水辺は駒ヶ池と大沼湖のふたつ。
「駒ヶ根には大沼湖と駒ヶ池という二つの湖というか池があるのですが、この2カ所も好きな場所で、よく訪れます。駒ヶ池から見る中央アルプス千畳敷、大沼湖から見る中央アルプスは本当絶景ですし、春の桜、新緑、秋の紅葉、雪景色とどの季節に来ても、四季折々の美しい景色が楽しめます。」
駒ヶ根周辺にはいくつかキャンプ場があるが、一番有名なのはアニメ「ゆるキャン△」の聖地でもある「陣馬形山キャンプ場」だろう。
陣馬形山キャンプ場は中央アルプスと南アルプスの間に位置し、標高も1,445Mと高く車、バイクで行けるキャンプ場としては日本でも有数の高所に位置するキャンプ場だ。
「『天空のキャンプ場』って言われたりもしていますよね。朝は南アルプスからの御来光、昼は中央アルプス及び南アルプスの名峰を一望、夕方は中央アルプスの夕焼け、夜は眼下に広がる伊那谷の夜景と星空を、と一日中景色を楽しめる、まさに絶景キャンプ場とはこのことだなと思います。」
日々、薪を割り、火を灯す
わざわざキャンプ場に行かなくても庭ではキャンプや焚き火を日常的に楽しむことができる。焚き火で使う薪も、薪ストーブに使う薪も全て自身で作る写風人さんは「薪割りはもはや日課」だと話す。
「毎年ものすごい量の薪を消費しています。なので薪は森林組合などに頼んでトラックで原木を運んでもらって。それをチェーンソーでカットして、斧で割ってをエンドレスに(笑)。生活に必要な薪以外にも、仕事で焚き火や薪ストーブの撮影をするので、本当に年がら年中薪割りをしてます。(笑)」
写風人さんは焚き火をするにしても薪ストーブを愉しむにしても、全ては薪作りから始まると考えている。
「森から頂いている恵だと思っています。それを全て燃や尽くして成仏させるような。その過程にある侘しさなんかに触れること自体が好きなのかも知れません。」
パチパチと音をたてて爆ぜる薪。焚き火には癒し効果があるとされるが、写風人さんにとって炎の魅力とは。
「もちろん、見ていて癒されるとか、料理ができるとか色々あるんですけど、表情がいつも違うところですかね。撮影の対象としてもものすごく面白くて。同じ形にならないじゃないですか? 焚き方によっても変わりますし、気温や湿度によっても全然違う。私自身の好みで言うと、最小限の燃やし方で一人で楽しめるだけの小さな焚き火が好きです。」
薪作りの苦労を知っている写風人さんだからこそ、無駄には燃やさない、そういった焚き火スタイルなのだろう。
焚き火台を使わない直火スタイルを好む写風人さん。キャンプギアに関しても、ここ最近の流行はキャンプ場に持ち運びがしやすいULなギアであったり、コンパクトになるものだが、写風人さんの趣向は違う。
「僕はいわゆるキャンプ場とかには滅多に行かないので、ギアは別に軽いものでなくても良いんです。どちらかというとガシガシ使えるヘビーデューティーなものが多いです。鉄製のダッチオーブンや銅製のケトルとかを愛用しています。」
写風人さんの家の中には確かに使い込まれたグランマコッパーケトルやスキレット、ダッジオーブンなどが並んでいる。
南信州・駒ヶ根に家をかまえるということ
田舎暮らしは、都会に住むのに比べると不便なことも多い。すぐ近くにコンビニエンスストアやショッピングモールがあるわけではない。ご近所付き合いも都心に比べて深く、行事ごとの集まりなど、関係は自然と密になってはくる。
不便とは便利と比べることで初めて感じるものなのかも知れない。ないが当たり前ならあるものでなんとかしたり、工夫する適応力が人間にはある。地域のコミュニティーもこちらの捉え方ひとつで、人の温かみに触れることができる格好の機会になり得るのだろう。
写風人さんの南信州・駒ヶ根での森暮らしを覗いてみて、そう感じた。
焚き火、薪ストーブと一口で言っても、それは暖を取るためだけの火ではなく、眺めているだけで癒されるし、その暖を使って料理を作ったり、部屋を乾燥させたりと、彼の生活には火が生活のあらゆるところに浸透している。
アナログな炎。写風人さんによれば、マッチ一本の火でひと冬を過ごすことも可能なんだそう。
写風人さんの南信州・駒ヶ根での森暮らし。都会暮らしの人には不便に感じるかも知れないが、写風人さんにとっては好きなことが仕事につながり、生活そのものが好きなことで溢れている。焚き火をしたければ自分のフィールドで焚き火をし、部屋で暖をとりたければ薪ストーブに火を灯す。毎日が好きで溢れている。
駒ヶ根の自然に身を置いていることがいつでも好奇心を育んでくれる。写風人さんは理想の移住生活をすでに手にしているように思えたが、南信州の景色が季節で移ろいでいくように、日々アップデートしているように感じた。
「今はまだ仕事をしていたりしてなかなか出来ないですが、ゆっくり時間が取れるようになったら、しっかりとした風景写真を一生懸命撮りたいです(笑)。」
写風人さんの移住生活はまだ始まったばかりなのかも知れない。