「ブッシュクラフト」と聞くと皆さんはなにを思い浮かべるだろうか。
サバイバル的なイメージがよぎり、不便で少し敷居が高いものに感じる人もいるかも知れない。
英語でbushは「茂み」、craftは「工作」を意味するが、ブッシュクラフトは森などの自然環境の中における「生活の知恵」の総称で、自然の中で生活していく行為そのものや生活に必要な技術のことを指す。
キャンプにのめり込んだ人の中にはそんな原始的とも言えるブッシュクラフトの世界にたどり着く人も多い。
「生活」「原始的」なんて言うと難しく感じる人もいるかも知れないが、実はキャンプをしている人であれば、無意識のうちにすでにブッシュクラフトをしている可能性は高い。
ヒロシや、バイきんぐの西村、じゅんいちダビッドソン等を有するキャンプ好き芸人で構成されている「焚火会」。その個性派軍団の中でもキャンプ歴が一番長く、「焚火会」創設メンバーでもある阿諏訪さんも、そんなブッシュクラフトの魅力に取り憑かれた一人だ。
「19年くらい前にキャンプを始めたのですが、気付いたらブッシュクラフトの魅力に取り憑かれていました。」
今回阿諏訪さんに愛用ギアを紹介してもらい、実際にペグや箸を作ってもらいながら、ブッシュクラフトの魅力について存分に語ってもらった。
最小限の荷物で、先人の知恵や技術を使い、現地にあるものを調達してキャンプをする。
最も自然を身近に感じることができるブッシュクラフトの世界を知ったら、あなたはもう今のキャンプスタイルには戻れないかも知れない。
Chapter
-
01.
阿諏訪泰義がブッシュクラフトにハマったワケ
-
02.
十数年かけて厳選されていった阿諏訪泰義のブッシュクラフトギア
-
03.
阿諏訪が愛用するブッシュクラフトナイフはこれだ
-
04.
現地調達したものでペグ、箸、スプーンをつくる
-
05.
知識が増えると、荷物が減る
「ブッシュクラフト」と聞くと皆さんはなにを思い浮かべるだろうか。
サバイバル的なイメージがよぎり、不便で少し敷居が高いものに感じる人もいるかも知れない。
英語でbushは「茂み」、craftは「工作」を意味するが、ブッシュクラフトは森などの自然環境の中における「生活の知恵」の総称で、自然の中で生活していく行為そのものや生活に必要な技術のことを指す。
キャンプにのめり込んだ人の中にはそんな原始的とも言えるブッシュクラフトの世界にたどり着く人も多い。
「生活」「原始的」なんて言うと難しく感じる人もいるかも知れないが、実はキャンプをしている人であれば、無意識のうちにすでにブッシュクラフトをしている可能性は高い。
ヒロシや、バイきんぐの西村、じゅんいちダビッドソン等を有するキャンプ好き芸人で構成されている「焚火会」。その個性派軍団の中でもキャンプ歴が一番長く、「焚火会」創設メンバーでもある阿諏訪さんも、そんなブッシュクラフトの魅力に取り憑かれた一人だ。
「19年くらい前にキャンプを始めたのですが、気付いたらブッシュクラフトの魅力に取り憑かれていました。」
今回阿諏訪さんに愛用ギアを紹介してもらい、実際にペグや箸を作ってもらいながら、ブッシュクラフトの魅力について存分に語ってもらった。
最小限の荷物で、先人の知恵や技術を使い、現地にあるものを調達してキャンプをする。
最も自然を身近に感じることができるブッシュクラフトの世界を知ったら、あなたはもう今のキャンプスタイルには戻れないかも知れない。
阿諏訪泰義がブッシュクラフトにハマったワケ
阿諏訪さんのキャンプ歴は、幼少の頃にお父さんに連れられて行った頃からスタートする。1990年代〜のキャンプブームだったこともあり、週末になるとお父さんに連れられ、キャンプや釣りに行っていた。
嬉しそうに自分をアウトドアに連れ出すお父さんを見て、その当時は何が楽しいのか分からなかったが、歳を重ね、気付けば自分もキャンプの世界にどっぷりハマっていた。
キャンプを始めた当初は車を持っていなかったため、主な移動手段は電車。自ずと阿諏訪さんのキャンプスタイルはザック一つの軽量スタイルになった。
「荷物を車に好きなだけ詰めるオートキャンプではないため、自然とUL(ウルトラライト)なスタイルになりました。少しでも少なく、少しでも軽くと」
キャンプにハマっていく過程で王道のコースがある。まず自分の好きなものをどんどん買っていく。そして回数を重ねるごとに設営、撤収を少しでも楽にと荷物を厳選していく。さらに凝り性な人だと、チタンであったりと材質にこだわり、少しでも荷物を軽くしていく。世に言う「UL(ウルトラライト)」スタイルだ。
「そしてULスタイルをしていたら、自然と『現地でいかに調達できるか』という発想に変わっていきました。笑」
そう。ブッシュクラフトの基本は「現地調達」にある。
「ポールを持って行かないで倒木を使ったり、箸を持って行かずに落ちている枝を削って使ってみたり。水は川の水を浄水して煮沸して、自分で釣った魚や採った野草を食べる。そういった体験を重ねていく内に、気付けばブッシュクラフトの世界にどっぷり浸かっていました。」
キャンプに行っていれば忘れ物もある。手持ちのものでは間に合わないこともあるだろう。その時に諦めるのではなく、頭を使って、手持ちのものであったり、野にあるもので工夫して代用出来た時の喜びはブッシュクラフト特有の魅力だ。
「ブッシュクラフトって知識をつけたり、経験を積むことなんですよね。」
幼少期のオートキャンプから、ソロキャンプ、ULキャンプを経た阿諏訪さん。そんな阿諏訪さんが普段持っているブッシュクラフトギアはどんなものなのだろうか。阿諏訪さんの愛用ギア一式を見せてもらった。
十数年かけて厳選されていった
阿諏訪泰義のブッシュクラフトギア
「持っていくものは限られているんですけど、その一つ一つのギアは妥協したくないんですよね。」
阿諏訪さんのキャンプギアはこのフェールラーベンのザック1つにまとめられている。
「ザック1つにギアを収めるのは僕のこだわりで、嵩張ってしまうテントは張らずタープを張ってハンモックで寝ることが多いです。現地にある枝や石を使って、いかにくつろげる空間を作れるかが私のブッシュクラフトの目指すところです。」
1960年に設立されたスウェーデンの国民的アウトドアブランドのフェールラーベンはその耐久性、機能性はもちろんのこと、そのタイムレスなデザインが野にしっくりくる本格派アウトドアマンにも愛されるブランドだ。
阿諏訪さんがフェールラーベンの公式アンバサダーを務めるきっかけとなったのは、テレビ出演の際に元々好きだったフェールラーベンで全身コーディネートしていたのを関係者が見ていて、是非にと依頼されたそうだ。
ザックの中身を見せてもらうと、無駄を省きながらも自分の好きな、思い入れのある使い込まれたギアで厳選されていた。と同時にそのギアの少なさに「厳選されすぎでは?」と著者は思った。
キャンプを始めると誰しもが一度は悩む「増えていくキャンプギア問題」。せっかく買った高価なキャンプギア。
回数を重ねていくと「あれがあったら良いな」や「念のため持っていこう」とどうしても増えていくが、阿諏訪さんの考え方は逆だ。使用していくギアが厳選され、削ぎに削ぎ落として今の少数精鋭のラインナップになった。
ブッシュクラフトというとサバイバルと混同しがちだが、サバイバルの目的が「生還」なのに対し、ブッシュクラフトは「生活」であるところに違いがある。
「『ナイフ1本で森でサバイバル』とは違って、最低限のギアと自然にあるものを使って、それらをうまく調和させることがブッシュクラフトの醍醐味だと思うんですよね」
数種のナイフ、倒木を切る曲刃で刃の長い鋸、真鍮製の火吹き棒、ご自身の趣味でもあるレザークラフトに入っている調味料。話を聞くと、その一つ一つが、阿諏訪さんの長年のキャンプ歴が培ったこだわりと好きとセンスが詰まった、魅力的なギアだという事がわかった。
例えば阿諏訪さんが愛用している斧はキャンパーの憧れ「グレンスフォシュ」のワイルドライフだ。
スウェーデンの名門グレンスフォシュ・ブルークスは1902年から斧を作り続けている。
「この斧も気に入っていて長く使っているギアの一つです。斧頭にアルファベットが刻印されているのですが、作った職人のイニシャルで、今なお一本一本職人によって手作業で作られているんですよね。」
工程によって担当を分けるのではなく、一人の職人が最初から最後まで一貫して担当することで、修正が必要となる誤差をなくしているそう。
16種類とサイズのラインナップも豊富なグレンスフォシュだが、阿諏訪さんはその中でも手に馴染む握りやすい小型斧で、様々なシーンに対応するバランスの良さが特徴のワイルドライフを長く愛用しているという。
阿諏訪さんのギア選びの基準はなんですか?
「色気です。ギアは新品の状態が一番格好よくないと思っていて。何年もキャンプで夜を共にして、どんどん自分のギアになっていく感じが好きです。ギアを買うときは『数年後の汚れた姿』を想像して選んでいます(笑)」
阿諏訪が愛用するブッシュクラフトナイフはこれだ
ブッシュクラフトをする上で、必需品の一つはナイフだろう。
阿諏訪さんが愛用しているナイフは「ケラム」のウルヴァリンプロだ。
「ブッシュクラフトを始めるのであれば、持ち手より刃が短いナイフがいいと思います。」
サバイバルナイフというと長い方が格好良いと思いがちだが、鉈的なやぶ払いをする用途が必要でなければ、ブッシュクラフトにおいては実用的なブレードの短いナイフの方が使い勝手が良いと阿諏訪さんは考える。
「ウルヴァリンというもう一回り大きいモデルもあるのですが、私は刃の短いウルヴァリンプロを使っています。」
阿諏訪さんはもう少し細かい作業をする時用にもう一回り小さいモーラナイフのウッドカービングを持っている。
バトニングなどの作業には向かないが、最終的に形を整える際など細かい作業をする場合は刃の切っ先を使用するため、切っ先が手元に近い刃長の短いナイフが必要になる。
同じくモーラナイフのフックナイフ。スプーンやボウルを倒木から作る際、内側を彫るのに適した形状をしたブレードを持つ。
片刃になっている右利き用の「ライト」と左利き用の「レフト」があるが、両刃タイプの「ダブルエッジ」というモデルもある。
ダブルエッジの方が引きも押しも出来るから良さそうですが?
「シングルエッジだと、刃の峰の部分を指で押しながら削ることができます。指を添えて削れるので刃の角度を感じやすく、細かい仕上げにも最適です。」
なるほど。さらに、利き手で「押し切り」にも使えるようにライトとレフトの左右両モデルを揃えるグリーンウッドワーカーもいるというから、ナイフの世界は実に奥が深い。
現地調達したものでペグ、箸、スプーンをつくる
いざブッシュクラフトを始めようと思っても、難易度が高そうで何からやったら良いのか分からない人も多いかも知れない。
「最初はペグや箸などが簡単で良いと思います。」
ソロキャンプに慣れてくると、案外時間を持て余す。携帯を見ても良いのだが、折角都会の喧騒を離れ自然を感じに来たのに、なんかそれも味気ない。
「ウッドワークは自然を感じながら無心になれるのでオススメです。」
無心になれるのは、ナイフを使っている緊張感もあるかも知れないが、削りすぎて失敗しないようにするから自ずと作業に真剣さ増すのかも知れない。
不思議なもので枝を削っているだけで、自分のキャンプレベルが上がった気になれる。
「箸一つ、ペグ一つでも作ったらブッシュクラフトですよ(笑)」
簡単なものからはじめて、スプーンやナイフを作っても良いし、ランタンハンガーやポットなどの調理器具を吊るすハンガーを作っても良いかも知れない。
テントの跳ね上げ部やタープのポールを既成の物ではなく、野に落ちている木を使えばその唯一性からか、雰囲気もグッと良くなる。
「慣れてきたら、時間をかけてククサなんかを作っても良いと思います。」
ククサとはフィンランド北部に古くから伝わる白樺のコブをくり抜いて作られる手作りのマグカップだ。北欧では「贈られた人は幸せになる」と言われていて、大切な人にプレゼントする習慣があるほど根付いているものだ。
コブの部分は硬いため、先程の箸のようにおいそれとは作れないが、一回のキャンプでなく、ゆっくりと完成させていく楽しみもある。作業に熱中しすぎて気付けば夜も更けていた、なんてこともあるかも知れない。
ブッシュクラフトの時間は人を夢中にさせる不思議な力がある。
知識が増えると荷物が減る
阿諏訪さんが好きなブッシュクラフトのことわざがある。
「知識が増えると、荷物が減る」
キャンプを始めると楽しくてギアが増えてくる。あれもこれもと持っていっても1回も使わないこともあるし、楽しみで行ったキャンプで荷物の積み下ろし、設営撤収で疲れてしまうのはキャンプあるあるでもある。
実はベテランキャンパーであるほど持っていくギアが少ない傾向がある。知識があればその時に必要なものがはっきりしているし、最低限のギアとあとは現地調達でも快適な空間は作れる。
阿諏訪さんはブッシュクラフトを通じて様々なことを学んだと言う。
阿諏訪さんはブッシュクラフトのどんなところが好きですか?
「ブッシュクラフトって知識をつける作業みたいなところがあって、道具を知ること、自然のことを少しでも考えること。そうしていく中で自分のアウトドアスキルが付いていく。そんなところがが好きなんです。」
正しい知識があれば、自分にとって最低限必要なギアが分かる。
あとは自然のものを少しお借りすれば、その日のキャンプは充実したものにきっとなる。
ブッシュクラフトの一番の魅力はそんな先人の知恵や自然との調和を学ぶことで自分のスキルアップをダイレクトに感じられるところかも知れない。
知識がつけば自ずと視野が広がる。
「自然のものを使っていると、『ゴミが落ちていたら嫌だな』とか『ここで焚き火をしたら危ないな』とか不思議と気づけるようになるんですよね。」
ブッシュクラフトやその発祥の地である北欧の文化を学ぶということは、自然と向き合い、あなたのキャンプスタイルはもとより、ライフスタイル、考え方が変わるきっかけになるかも知れない。
慣れない人には小難しく聞こえるかも知れないが、キャンプをすると言うことはすでに誰しもがブッシュクラフトをしていて、もう一歩踏み出せば、さらに奥深いブッシュクラフトの世界があなたを手招きをして待っている。
阿諏訪さんの「箸一つ、ペグ一つでも作ったらブッシュクラフト」と言う言葉の真意はそこにあるのかも知れない。
阿諏訪さんと野でブッシュクラフトの話をして、僕はそう感じた。